〜WORLDNAVIコラム〜 国連安保理では連日イラク問題に関する討論がなされ、世界各国で計1000万人規模の反戦デモが起きる等、イラク攻撃に関する議論は白熱したものとなりつつある。しかし、アメリカはイラク攻撃に対する準備を着々と進め、3月頃までには武力行使が行われるとの見方が強い。 何故、このような事態になってしまったのであろう? 米国大使館のサイトを見ると、イラク問題に関しての米国の主張として、過去の国連決議に対しての違反や査察拒否等に付いて書かれている。 国連決議に対して過去にイラクが協力的で無かった事は事実であり、この事は正されるべきと言う事は、現在の国際世論の大勢となっている。 しかしこの事が、武力行使を許容する理由にはなっていない、と言うのが、現在の国際世論の大勢であろう。EUの会議ではフランス、ドイツ等がイラク攻撃への協力に反対を唱え、国連安保理ではフランス、ロシア、中国等が武力行使に反対の立場をとっていることは大きく報じられている。18日の国連安保理では安保理外の27カ国・機構が演説をしたが、22カ国は平和的な解決を強く打ち出し、反対に武力行使容認の新決議採択を支持したのは日本とオーストラリアだけであった。 イラクへの攻撃については、国際法上の問題点が強く指摘されている。国連憲章2条3項には「すべての加盟国は、その国際紛争を平和的手段によって国際の平和及び安全並びに正義を危うくしないように解決しなければならない。」とあるが、イラクへの攻撃を急ぐことは、この条項に相反することは明らかだ。更に深刻なのは、武力による被害・攻撃を受けていないのに相手に武力行使をしてしまう悪しき前例を作ってしまうことである。911事件後のタリバン政権に対する侵攻の際には、911事件を相手からの先制攻撃とみなし許容する雰囲気も多くあった。しかし現在進んでいる状況は、相手からの攻撃・被害が無いにも関わらず先制攻撃を許容する、気に入らないものは潰してしまえといった感を強く受ける。今後の国際社会が、国連の国際平和の理念ではなく、米国に味方するか否かのみの敵味方感情で形作られてしまう可能性に強い懸念を持たずにいられない。 世界の多くの国が平和的な解決を強く望む中で、日本の首相は反戦デモに対して「誤ったメッセージを送らないよう、注意しなければならない」と述べ、国連では米国への支持を鮮明に打ち出している。 日本にとっては、如何なる場合でも同盟国であるアメリカへの支持は当然の事で、勝ち馬に賭る事が日本の国益にも適っている、とする見方もある。恐らく、現在の政府の対応も、このような考え方に立っているのだろう。 しかし、現在の国際法の存在意義を崩してまで、米国の外交にただ追随し続けることが、長期的にわが国国民の繁栄・国益に適うものであるかどうかは、更なる検討が必要なものでは無いだろうか。 イランやアルカイダが、20〜30年前にアメリカと協力関係にあったことは良く知られていることである。現在は、太平洋のキーストーンとして日本は米国と親密な同盟関係にあるが、将来永劫にこの関係が続く事を保証するものは無い。 シラク仏大統領の言葉を借りるならば、イラク攻撃により「中東全域が不安定化する上に、アラブ、イスラム世論が激しく反発するのは避けられない。多くの小さなビンラディンが生まれるだろう。戦争は過激派に好都合の事態を生む。」事が懸念される。我が国が中東で培ってきた友好・信頼は失われ、そのことによる利益の損失は免れない。バリ島で(親米とされる)オーストラリア人をターゲットにしたとみられる爆弾テロ事件は記憶に新しいが、例え爆弾の入手が難しくても、ガソリン・灯油の入手はどこの国でも可能だ。それを地下鉄車内で撒いて火をつければ、地下鉄サリン事件よりも多くの死者が発生する惨事となり得る事は韓国の地下鉄火災の例を見れば、容易に想像の付くところである。もし、文明の衝突が対岸の火事で終わると考えるのであれば、それこそ隙だらけの危険な状況であろう。 今後の国際社会のあり方を考えると、「いかなる共同体であろうと一人だけが支配的な力を持つことは危険で、反発を呼ぶ。」というシラク大統領の言葉は重みのあるものである。一度イラク攻撃が行われれば、犠牲者の数は少なくとも1万人を下らないだろうと言われている。過去の戦争でも、多くの無実の市民が亡くなってきたが、更なる犠牲者の発生は避けられない。その犠牲者への悲しみが、新たな恨みを生み惨事を引き起こす事は、過去を振り返っても明白な事である。悲しみと恨みの連鎖が起こされない様に、イラク問題の平和的解決がなされる事を祈りたい。 |
草場 歩 (感想等はこちらへ) 2003.02.20 |
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